8/12(金)
近くの漁港に大量のイワシがステイしていると聞き、地元の小さな釣り具屋にサビキを買いに行った。邪道なメソッドだけど、浮きとヘビーなフライの間にサビキを挟んで、ルースニングの要領で潮に流せばイワシが釣れるんじゃないかと思ったからだ。
釣り具屋のおじさんに、ついでに川のことも聞いてみると、思ってもみなかった答えが返ってきた。
実は僕らが行こうとしていた渓の一つに、流域に集落が無いため全流程に渡り堰堤が無いという川があった。そこには海から遡上してくるという大型のアメマスやサクラマスがいるという話なのだけど、この時期は藪が発達しきっているから地上からのアプローチが不可能だと思っていた。実際、昨年その川へと至る道のような跡を発見してはいたけれど、とてもじゃないが歩を進めようとは思えない有り様だったのだ。
そこで僕らはその川の河口までカヤックを使って行き、そこから釣り上がろうとしていたのだけど、折からの風でカヤッキングが不可能なほどに波が高くなっていた。だからその川へ行くのは諦めていた。
が、釣り具屋のおじさんに聞くと昨年見つけたルートの他にも道があるという。しかもその道は(川の上流に出るため、大物を狙うなら釣り下らなければならなくなるとはいえ)、歩く時間も20~30分程度で済むという。
さっそく僕らはそのルートへと向かった。
廃林道の入口には簡易的な柵が置かれていたようだが、既に薙ぎ倒されていた。その柵には「車両進入禁止」の看板も掲げられていたけれど、太いタイヤに踏みつぶされている。土を均しただけの廃林道には背の高い雑草が生い茂ってはいるものの、時たま通っているであろう車が轍を作っている。僕らはそこを歩いて進んだ。
なるほど、聞いていた通りそれほど進みにくい道ではない。10分だか15分だか歩くと、道は二手に分岐していた。一つは上流へと延びる車の轍が残る廃林道。そしてもう一つは、谷底の方へ向かうかつての林道の残骸だった。そちらは車など到底通ることも出来ないほど荒れ果てており、雑草の隙間には大きな落石がいくつも覗いていた。ほとんど登山道といって良いような道だった。しかしその奥から、かすかに水音が聞こえている。
おじさんは轍の残る上流への道を教えてくれたが、この分岐から下りれば中流へ出られるだろうことは明白だった。そうして僕らは、草むらの中にタヌキが築いた糞の塚を踏まないように注意しながら進んだ。10分程度歩くと、それほど苦もなく川に降りることができたのだった。
ロッドを継いでフライを結ぶ。流れの中には、狭い範囲に見えるだけで6匹の魚の姿が認められた。
10番のディアヘアカディスを放つと、すぐに数匹の魚がフライめがけて突っ込んできた。
そのうちの一尾がフライをくわえたのを確認し、一呼吸おいて合わせをいれる。
手元によって来たのはやはりエゾイワナだった。
フライをがっぷりと飲みこんでいる。おそらく全くスレていないのだろう。
一尾を釣っても、流れのなかにはまだ他の魚が残っていた。
次を投じるとすぐにヒット。今度はフライを飲まれないように早合わせを入れてやる。
そんな感じで1キャスト1フィッシュがしばらく続いた。
小さな魚でも2番ロッドなら十分に楽しい。時折8寸や9寸近い魚がかかった時は、とてもエキサイティングな釣りになった。
それに、かつての王国がすっかり滅んでしまった後では、この状況が何よりも嬉しかった。
下流に行けば大物が釣れるということだったけれど、往復で6時間は歩くらしい。午後入渓だから日没には間に合わなそうだ。
次に来られるのはまた来年になってしまうことを思うと、少し後ろ髪を引かれる思いがした。
たった一年で魚がいなくなってしまった渓の姿を目にしたから、ここも来年には失われてしまうんじゃないかという不安が頭を過ぎる。海からの遡上もある堰堤のない川だから、絶滅レベルでの激減はないだろうとは思うけれど、それでも、何があるかはわからない。
だからこそ、来年もまた来よう。そう強く思ったのだった。
にほんブログ村
- 関連記事
-
スポンサーサイト